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放射線治療後の局所再発どこにできやすい?

限局性前立腺がんで放射線治療後の局所再発どこにできやすいのか?

・初回治療としての放射線治療には、外部照射(IMRT,3D-CRTなど)、組織内照射(小線源治療)、粒子線治療(重粒子線や陽子線治療など)さまざまな治療モダリティーが現在ある。こうしたなかで局所再発(前立腺内部に再発があること)があった場合、どこにできやすいのか?

・下の論文は、2012年で少し前のものになるが、局所再発部位は、初回治療時にがんがメインであった場所に再発することが多いと述べている。

・放射線治療後の再発において、まず、重要なのは初回治療のがんがどのような分布、また、悪性度であったかなどの情報はとても重要である。

・私は、救済療法として放射線治療後の再発がんに対する手術療法(救済前立腺全摘除術)をおこなっているが、この術前やはり初回治療時のがん情報の把握は、より根治性が高い手術を目指す上で重要と考えている。

ひとつの注意点は、局在診断としてのMRIはここ約5-8年前後、使用されるようになってきている。つまり、それよりも前の放射線治療になるとMRI情報がない場合もある。初回治療時のMRI情報も、救済治療を行なう上で非常に重要なインフォメーションを我々にあたえてくれる。

放射線治療後、局所再発前立腺癌に対する治療選択肢は?

・放射線治療後、局所再発前立腺癌に対する治療選択肢は?

 転移がない、放射線治療後、局所再発前立腺癌は、放射線治療後、PSA上昇を認め、生検で前立腺内部にのみに癌を認める状態である。

 この場合、これまでは海外でもホルモン治療が行なわれていた現状があった。(下図)しかし、近年は、手術また局所治療(フォーカルセラピー)としての凍結治療、HIFU(超音波温熱治療)などが海外で行なわれている。日本においても、凍結治療やHIFUは保険適応がないが、局所再発がんに行なっている大学病院などがある。

日本において、日本泌尿器科学会が発行している2016年、前立腺癌診療ガイドラインによる各治療の推奨グレードは下記の通りである。(引用:2016年、前立腺癌診療ガイドライン)

臨床的再発とは、遠隔転移などを認めるものであるが、これらはホルモン治療が行なわれることが多い。しかし、局所再発のみの場合は、いずれの治療も推奨グレードC1である。

なぜか?

放射線治療後の追加治療は、初回治療よりも副作用が多くなる可能性があること、また、診断の難しさ(遠隔転移診断が十分でない可能性、海外ではPSMA PET検査などがある、日本においては臨床試験の段階)もあるため適切な治療適応がまだ、十分定まっていないことがあげられる。

局所再発、前立腺全摘除術は有用か?

局所再発、前立腺全摘除術は有用か?

前立腺内部のみの再発の場合に、手術(前立腺全摘除)というオプションがあります。

これを、救済前立腺全摘除術(Salvage radical prostatectomy)といいます。救済とは再発後の治療といった意味になります。

・手術の問題点はなにか?

① 合併症が多いと言われている

 1.通常の初発(最初の時点で行われる)の前立腺全摘除術と再発時の救済前立腺全摘除術を比較すると、放射線治療の影響により、周囲組織との癒着が強くなり副作用が多くなるといわれています。手術で一般的な、尿失禁、直腸損傷などのリスクが上昇するといわれています。

 2.しかし、最近は少しずつ変化している部分もあります。ひとつに放射線治療が変化してきており、依然の外部照射(3DCRT)などとくらべて最近の外部照射(強度変調外部照射:IMRT)や小線源治療(ヨードの線源を挿入するもの)や粒子線治療(陽子線や重粒子線治療)などは、周囲組織への影響が少なくなっている可能性があります。これは、より前立腺内部に強い放射線が照射され、周囲は抑えるといったふうに変化してきている可能があります。

 また、手術方法も以前は、開腹手術のみでしたが、最近では腹腔鏡手術やロボット支援手術などがひろくおこなわれるようになりより細かい手術が可能となっていることで上記の合併症の発生頻度も報告上は低下してきています。

問題点

・ただし、報告されている多くの論文は大規模施設でエキスパートな術者が行ったものが多いです。つまり、下記の海外のガイドラインでも述べられているように、慣れた病院で慣れた術者が行う手術であることは間違いありません。

・また、手術の選択は、とり切れることが最大の目的となります。(もちろん、転移やホルモン治療までに時間を遅らせることも目的ですが)術前、MRI・生検などを踏まえ手術適応を慎重に検討する必要性があります。

② 根治の可能性は?

・下記は2012年報告された、救済前立腺全摘除術のReview論文(様々な報告をまとめて検討した論文)です。

Eur Urol. 2012;61(5):961-71. Cancer control and functional outcomes of salvage radical prostatectomy for radiation-recurrent prostate cancer: a systematic review of the literature.

この報告によると、摘出後のPSA再発(採血上の再発)がない生存が 5年で47% から 82% 、10年で28% から 53%とほうこくしています。つまり、5年でも約半分の症例は、追加治療を行わないで経過が見れていることになります。ただし、これらの結果は、対象がどんな症例であったか?どこの病院でだれが手術をしたかということも大きく影響する可能性があります。また、術後の病理結果で画像ではリンパ節転移がなかったが、とった組織の中にはリンパ節転移があったということも大きく影響します。

 こう考えると手術前の状態、診断がとても重要と思われます。

再発時、どんな検査するの?

「PSA値があがりました。採血上の再発の可能性があります。」

こんなことを言われたら、せっかく放射線治療したのに・・

もしくは、最初の治療がうまくいかなかったじゃないか・・などいろいろなことを考えますよね。しかし、大事なことは最初に書いたようにどのような再発なのかできるだけ正確に評価・把握することが重要です。

PSA再発時の検査について下記に簡単にまとめてみます。

① 画像検査・・転移がないか評価します。一般的にはCT検査や骨シンチグラフィー検査を行い、遠隔転移がないか検索を行います。最近では、全身MRI検査(Whole body MRI)検査も行われる場合があります。海外においては、PSMA PET検査等が可能です。偽陽性の可能性もありますがより検出感度といわれています。


② 前立腺MRI検査・・前立腺内部に、再発もしくは残存病変がないか評価するためにMultiparametric MRI (mpMRI)といった前立腺のMRI検査が行われます。注意は、一般的に放射線治療後の前立腺内部の再発がんのほうがMRIでの所見がでにくくなる場合があります。より正確な評価として下記に述べる前立腺生検も重要です。


③ 前立腺針生検・・前立腺内部の再発(局所再発)の有無を確認するために、MRIと同様に前立腺針生検を行います。前立腺全体の癌の再発を把握するために、全体の生検(Saturation 生検)が必要となります。MRIで異常所見を認める場合は、その部位に対する標的生検(Targeted biopsy)を行う場合が多いです。なぜなら、その部位に最も悪い癌の再発を認める場合が多いからです。最近では、MRIとエコー(Ultrasounds:US)を用いてその画像を癒合させて標的生検を行うMRI/US癒合標的生検が行われます。

日本においては、MRI/US癒合標的生検は、現在、先進医療として行われています。

・画像および生検検査などから総合的に評価します。

簡単にまとめると、

・前立腺の中にがん細胞がある

・ほかのところにがん細胞がある

・画像・生検では、がん細胞がある場所がはっきりしない(おそらくは前立腺周囲、ミクロの細胞による)


それぞれによって治療の方針が変わってきます

放射線治療行ったのにPSAが上昇、原因は?

・放射線治療(外部照射・小線源治療・粒子線治療等)を行ったのにPSAが上昇する、なぜでしょうか?

回答)限局がんで放射線治療行ってもPSAが上昇することがあります。これを、専門的には生化学的再発(PSA再発)と言います。連続してPSAが上昇した場合や、治療後最もPSAが低下した時点からPSAが2ng/ml以上(Phenix 定義)上昇した場合と定義されます。これはなにを示すか・・可能性は下記のとおりです。

① 前立腺内部に新たに癌ができる

② 前立腺内部に初回放射線治療の癌が残っていて増大してきた

③ 遠隔転移(骨・リンパ節など)が起こってきた

④ 微小転移といって前立腺周囲にミクロの癌の再発がある

などが考えられます。再発の形式によって追加の治療の方針が変わってきます。


次に再発時何をするかお話します。


参考)Phenix 定義・・・ Roach M 3rd, Hanks G, Thames H Jr, et al. Defining biochemical failure following radio therapy with clinically localized prostate cancer:recommendations of the RTOG- ASTRO Phoenix Consensus Conference. Int J Radiation Oncol Biol Phys. 2006; 65: 965- 74.